すみだ川アートラウンド・プラクティス
地域内のアートNPOのコレクティブ化計画[地域と子ども]

「ムジタンツクラブのアートなお祭り パート2!」

2024年2月25日(日)

昨年秋に実施した「ムジタンツクラブのアートなお祭り」の第2弾を開催しました!本企画は、アーティストたちによる屋台を楽しんだり、子どもたちが自分で屋台をつくることができるお祭りです。

前回(2023年9月)の実施と比べ、どのような変化が見られたのでしょうか。今回も当日の様子を体験レポート形式でお伝えします。

また、レポートの最後には足立区の母子生活支援施設ポルテあすなろにて実施した事前ワークショップについても触れながら、お祭りの準備から本番までの試みをご紹介します。

実践の概要

日時:
2024年2月25日(日)

1部 13:30〜15:00 2部 15:00〜16:30 ※出入り自由

会場:足立区立保木間小学校

参加費:無料

参加アーティスト:
松岡大(舞踏家/LAND FES・山海塾)
大西健太郎(ダンサー・パフォーマンスアーティス / 谷中のおかって)
南條由起(ヴァイオリニスト/認定ワークショップデザイナー)

企画構成:ムジタンツ

実践レポート

 

リポーター:篠原美奈(東京藝術大学大学院博士後期課程、アトリエ・ムジタンツメンバー)

受付で「屋台チケット」をゲット!

参加者は、はじめに受付でお祭りの楽しみ方の簡単な説明を受け、「屋台チケット」と書かれた3枚のチケットをもらいます。チケットには、それぞれ「絶滅危惧種!動物で!?ダンス?!」「屋台をつくろう屋台村」「なんゆきのアートな楽器マーケット」と書かれており、各ブースで使うことができます。また、事前予約をした人には、何にでも使うことができる「金色のチケット」も渡されました。

昨年秋の実施時にはなかったこのチケット制度。もちろん、チケットがなくとも(子どもたちがチケットを無くしてしまった場合や、2回目以降の参加の場合なども)各ブースに自由に参加することができますが、受付の時点でこのお祭り全体の内容を知ってもらい、「せっかくだから他のチケットも使いたい!」と積極的に複数のブースを周るモチベーションに繋がるような試みとして導入されました。

松岡大「絶滅危惧種!動物で!?ダンス?!」

チケットを片手に、ダンスの部屋にやってきました。部屋の手前では舞踏家の松岡さんとダンサーのおこめさんが軽快な音楽に合わせて体を動かしています。奥には机が並べられ、何やら「作業」をしている様子が見えます。

踊るブースなのかと思いきや、まずは絶滅危惧種の動物をまっしろなTシャツに描くところからスタートのようです。黒板にホッキョクグマやオランウータン、イリオモテヤマネコ、コウテイペンギンなどの写真が貼ってあり、そこから自分の好きな動物を選んで、布用のペンを使って描いていきます。

勢いよく描きあげる子や、写真をじっくり観察しながら描く子、動物を描いた後に背景をたくさん描き足す子など、様々な様子が見られます。一方で、まっしろなTシャツに絵を描き始めるというのは大人でも躊躇するもので、なかなか描き始められなかったり、少し描いてみて思い通りにならないので手が止まってしまう子も多く見られました。

迷っている子にはスタッフが声をかけています。このブースでは、油画を専攻している学生もスタッフとして参加しており、彼女が着ているTシャツには信じられないくらいリアルでカラフルなオランウータンが描かれています。「そんなん描けるわけないわ!」とツッコミを入れたくなる仕上がりに、自然と子どもたちも顔を上げて目を合わせます。

満足のいくTシャツが出来上がると、今度は松岡さんとおこめさんに誘われて、ダンスの時間になりました。1人ずつや、2〜3人の友達同士で参加する子どもが多く、バラバラのタイミングでTシャツが出来上がるので、その都度少人数の輪をつくって「自分の描いた絶滅危惧種のダンスを踊ろう」と松岡さんが声をかけます。

Tシャツづくりはシャイな子どもたちも参加しやすい一方で、ダンスは参加のハードルが少し高かったように見えました。しかし、一旦体を動かし始めると、元気に楽しく踊る子どもたちが多かったように思います。ダンスといっても、例えば「ペンギンのような動き」をする松岡さんの動きを模倣するところからはじまり、真似っこゲームのような雰囲気がありました。子どもたちは「遊び」感覚で参加し、時折松岡さんが見せる面白い動きにつられて笑顔を見せながらワイワイと楽しむ様子が見られました。

加えて、教室の絶妙な「狭さ」がアットホームな雰囲気を作り出し、他の子の視線をあまり気にせず踊りに参加しやすい環境となっていたこともうまく作用していたように見受けられました。

大西健太郎「屋台をつくろう屋台村」

体育館の半分のスペースを使って広がっているのがアーティストの大西さんと子どもたちによる「屋台村」。ここでは竹や段ボール、紙テープなど様々な素材を用いて自分の屋台をつくることができ、屋台を準備する時間と屋台をオープンする時間におおよそ分かれて構成されています。今回は、最初から最後まで屋台を作り続けている子どもも多く見られましたが、屋台オープンの時間には大西さんを中心にみんなで他の屋台を見合うツアーも開催されました。

参加している子どもの中には前回も屋台村に参加した子どもも多く、楽しみ方に慣れているようにも感じられました。一方で、今回がはじめてという子もいたので、屋台をどのようにつくることができるのか、実際に大西さんが竹や段ボールを使って丁寧に紹介していきます。自分が作った屋台では、自分が売りたいモノやコトをなんでも売っていいと説明し、例えば大西さんが得意だという「魚占い」のお店を開いたりするのもありだと言います(聞いたことのない占いの登場に子どもたちも「なんじゃそりゃ」のリアクションを見せます)。

説明が終わると、みんな素材を手に取りメキメキと屋台をつくり始めます。今回は友達同士で隣り合った屋台をつくったり、協力して一つの屋台をつくる子が多いように見え、一人でこのお祭りに参加した子が少し不安そうな表情を見せていました。開始前の雑談タイムに筆者(リポーター)に話しかけてくれたその子と少しお話しをすると、最近この地域に引っ越してきたため、これから友達をつくりたいと考えているとのこと。今日もお祭りに興味があったので来てみたけれど、一人で参加しても良いのか、一人でできるのかを不安に思っているということを教えてくれました。しばらくは筆者や学生スタッフと協力しながら屋台の準備を進めました。絵を描くことが好きということで、猫や犬、うさぎなどの立体的な人形を紙やテープでつくり、屋台で売ることにしました。

人形をつくり始めた頃、隣で屋台の準備をしていた子が、「ここは何を売るの?」と話しかけてきてくれました。人形を売るつもりだと店主の子が話すと、今度は「ひとついくら?」と値段を尋ねられました。「5ポルテ(屋台村のお金の単位)のつもり」と答えると「えー!!もっと高く売れると思う。10ポルテくらいでも欲しいもん!」とリアクションが帰ってきて、少しシャイだった店主も嬉しげな表情をしています。時間が経つにつれ、筆者や学生スタッフを介さずとも、そのような子ども同士のライトな会話が増えていく様子が見られました。

ちなみに、屋台は他にも「めがねやさん」や「レストラン」「マイアクセサリー&マイバッチ」「輪投げ」(景品はなんと「襟」)「職業体験」、何重にも仕掛けられた紙テープをくぐりながらゴールを目指すゲームなど、アイデアが光るものばかりでした!

南條由起「なんゆきのアートな楽器マーケット」

ここは、身の回りにある箱や缶などの素材を用いて、楽器をつくることができる部屋。 ヴァイオリニストの南條さんや、ピアノや声楽を専攻している学生スタッフの方と共に、マラカスやゴムを弾いて音を出す撥弦楽器(ウクレレのような見た目)をつくることができます。様々な素材が机の上に並び、子どもたちは自由に選んで工作していきます。手作り楽器の音は、ポロンポロンと音が鳴る可愛らしい雰囲気の音色でありながら、見た目はしっかりと「楽器」らしい仕上がりになることが子ども心をくすぐるように思えました。

楽器が出来上がると、自然と音楽家たちのセッションがはじまります。ヴァイオリンと鍵盤ハーモニカで奏でられる愉快な音楽は、みんなで「テキーラ!」と合いの手を入れるあのラテンナンバー。自分でつくったマラカスやウクレレ、タンバリン、あるいはワイルドに缶をそのまま叩いて子どもも大人も合奏に参加します。

お祭り中盤のセッションでは、「絶滅危惧種!動物で!?ダンス?!」とコラボレーションして、みんなで教室や廊下、体育館を回遊しました。屋台村に辿り着くと、輪になってくるくる回ったり、音楽もひときわ盛り上がりを見せ、その場に居合わせた子どもと大人たちに「一体あのどんちゃん騒ぎはなんだったのか…」と余韻を残しつつ、回遊集団は体育館を後にしました。

控えめな子どもにとっては、みんなで楽器を鳴らしたり、ダンスをしたりすることはなかなかハードルが高いように見えましたが、楽しそうな音楽を奏でる集団に「ただただついていく」ということもこのツアーに参加する一つの方法だったように思います。楽しい雰囲気を同じ空間の中で共有することも「お祭り」の醍醐味ですね!

 

ほっと一息、いやしの「茶屋」

お祭り後半になると、体育館の片隅にお座敷をひいた「茶屋」がオープンしました。「ポルテ(屋台村オリジナルの貨幣)」を自分でつくったり、屋台村で品物を売ってポルテを集めると、お菓子と交換してもらうことができます。昔懐かしの駄菓子屋さんのような雰囲気に子どもも大人もほっと一息。

今回の茶屋の面白みは、お菓子の値段が相対価格だったことにあるように見えました。というのも、交換条件である「ポルテ」は子どもたちによって無限に増刷されていくので、集まってきた子どもたち全員にお菓子が行き渡るように、茶屋のスタッフが状況判断をして、その価値を変動させていくシステムとなっていました。時には、子どもとスタッフが交渉している様子も見られました。

お祭り終盤、最後に集めた「ポルテ」とお菓子を交換するために「茶屋」に待機列ができていました。その時は、10ポルテでお菓子掴み取り1回という値段設定になっていましたが、そうなると手持ちのポルテの端数が余ってしまいます。そこで、待機列に並んでいる子どもに、すでに掴み取りを終えた子どもが余ったポルテを手渡している様子がみられました。どこか既視感のあるその光景は、デパートなどの福引で余った券を見ず知らずの後ろの人にあげる状況に似ているように思いました。利害関係が一致するからこそ生まれる子ども同士の「その場限り」の交渉や譲り合いがアートなお祭りならではの営みと言えるのかもしれません。

まとめに代えて

「ムジタンツクラブのアートなお祭りパート2!」では、子どもたちが没頭して「作業」に取り組むことができる場所(Tシャツ・屋台・楽器・づくりなど)と子ども同士や子どもと大人の会話が自然と生まれるような場所(ダンス・屋台村でのやりとり・楽器のセッションなど)の双方が準備されました。言い換えれば、様々な背景の子どもたちが安心して楽しむことができ、それでいて「開けた」取り組みが模索されていたのではないかと感じました。「お祭り」という枠組みは、子どもの交流を促進するアートの実践でありながら、子どもにとって身構えてしまう体験とならないための「緩衝材」としての役割を果たしうるのかもしれません。

アートマネジメント人材育成事業について

今回のプログラムは、文化庁 大学における文化芸術推進事業(アートマネジメント人材育成事業)の一環として、アートを専門とするファシリテーターの育成にも取り組みました。アートマネージャーや演奏家、芸術大学学生、ワークショップやプログラムコーディネートに関心のある方、足立区でこども支援を担う施設職員や一般社団法人の方々を対象に、当日はアシスタント・ファシリテーターとして実践を経験していただきました。

受付などの運営面だけでなく、演奏や進行の補助、子どもたちとコミュニケーションを行うなど、多様な関わりしろをつくることで、それぞれの経験したいこと、学びたいことを吸収してもらえるような場となることを目指し、プログラム設計を行いました。

ムジタンツとは

音楽(Musik)とダンス(Tanz)を組み合わせた造語です。
音楽を専門にする酒井雅代と、身体表現を専門にする山崎朋がお互いの専門性を持ち寄り、音楽とダンスを融合させた新しい形のワークショップを開発。クラシック音楽の作品を、聴いて、遊んで、楽しみ、探求する講座として、2018年に東京藝術大学一般公開講座「藝大ムジタンツクラブ」としてスタートしました。身体を動かし、音楽を体感しながら、作品との「対話」を目指すとともに、音楽活動を通して、価値観や創造力を広げられるようアプローチしています。

企画・構成:ムジタンツ
主催:東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科
共催:東京藝術大学キュレーション教育研究センター「東京藝大×みずほFG『アートとジェンダー』共同研究プロジェクト」
後援:足立区
協力:足立区立保木間小学校、あだち子ども支援ネット、ポルテホール連絡協議会

この事業は「令和6年度 文化庁 大学における文化芸術推進事業「すみだ川アートラウンド」〜ARTs×SDGsでつながる隅田川流域の民間組織コレクティブ化構想」の一環として開催します。
本イベントは、JST 共創の場形成支援プログラム「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」(JPMJPF2105)、東京藝術大学 I LOVE YOUプロジェクトの支援を受けたものです。