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「あなたの現場ではどうですか?」

隅田川流域の4区で展開するアートプログラムがかかえる「もやもや」を知り、交換と検証をする
2022年10月実施:すみだ川アートラウンド・ハブ開催レポート

「すみだ川アートラウンド」はSDGsの視点を持ち、コロナ禍を経て浮き彫りとなった社会課題をアートの力で解決していくために、隅田川流域の7区を活動領域とするアートNPO・団体が中核となって、これまでにない民間組織のコレクティブ形成を目指すプロジェクトです。本プログラムが構成する3つの要素「ラウンドテーブル」「プラクティス」「ハブ」のなかから、2022年10月15日(土)に実施された「ハブ」の第1回目の様子をレポートします。
「ハブ」では、地域に根差した独自の取り組みを行う団体の活動やノウハウを広く紹介するとともに、隅田川流域で草の根的に文化芸術活動を実践する人・団体が接続するための機会を提供しています。2022年度は「アウトリーチ」をテーマに、隅田川流域に位置する足立区、江東区、台東区、中央区で活動する4団体を招き、2団体ごとにお互いの事業内容などについてピア・レビュー(同業者による相互評価)に取り組みました。

登壇団体
NPO法人 トリトン・アーツ・ネットワーク
ムジタンツ
NPO法人 LAND FES
一般社団法人 谷中のおかって

ホールのそとで奏でる音:トリトン・アーツ・ネットワーク(中央区)×ムジタンツ(足立区)

会の前半では、子どもをはじめとした多様な年代の地域のみなさんと交流を続ける2プログラムを主宰する2組をゲストに迎え、ピアレビューを実施しました。音楽と触れる場、というと、格式高いコンサートホールを想像する方も少なくないと思いますが、中央区に拠点を構える〈NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク〉と、足立区を中心にワークショップを展開する〈ムジタンツ〉は、「アウトリーチ」という手法で、音楽を生活の場に持ち込み、音楽が人々の繋ぎ手となるような活動を続けています。

〈NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク〉は、晴海トリトンスクエア内にある第一生命ホールの主催公演(年間約30公演)の企画制作を担うほか、人材育成事業の展開と並んで、数多くのコミュニティプログラム(年間約40回)を手がけてきました。登壇した櫻井あゆみさんは「ホールでのコンサートにはクラシック音楽の愛好者だったり、お好きな方がお金を払って聴きにきてくださるけれども…コミュニティ事業に関しては[ビジョンに掲げている]『音楽でつながり、音楽とともに生きる社会の実現』を目指すにあたって、ホールに来られる方だけが対象ではない。ホールに足を運べない方々にもホールと同じ体験をお届けしようと2001年のオープン当初からコミュニティ事業を行っている」と話します。また、拠点とする中央区ならびに江東区豊洲・有明地区が新築マンションの増加に伴う人口急増地域にあたること、さらには、銀座・新橋・築地といった周辺エリアにある音楽ホールで近隣に住むファミリー層が気軽に参加できるプログラムを企画していなかったことを逆手に取った、という背景もあり、70名以上が所属するボランティアサポーターチームの形成や《第一生命ホールオープンハウス》を開館前に企画するなど、地域の方に愛されるホールを当初より目指しました。なかでも、アウトリーチ事業は決して簡単なスタートではなかったと櫻井さんは語ります。
小学校や福祉施設に行っても「2001年ごろはNPOという言葉もあまり浸透していなかったので『あやしいんじゃないの?』とか『第一生命?保険を売り込まれるんじゃないの?』とか『コンサートの宣伝でやるんじゃないの?』とか色々な言葉を掛けられた」と振り返りながら、第一生命ホールから最も近い小学校でのアウトリーチをきっかけに、当時の教員間のクチコミが広がり、今では中央区内の全小学4年生を対象にクラシック音楽のアウトリーチを開催するほどに拡大したと言います。「少人数」「小さな空間」「長くないプログラム」の「3つの小」を基本にしたプログラム設計から、受入先のニーズに合わせた編成や時期で内容をカスタマイズできる上、ホール公演の出演者にもコミュニティ活動の協力をお願いするといった連携も特徴の一つにあげられます。また、櫻井さんは、アウトリーチに参加したキッズの中には「楽器を始めた」という声や、「大学生になってから第一生命ホールのボランティアサポーターになった」というエピソードを紹介しました。