ピアレビューに挑戦してみて

各団体紹介が行われたあと、司会の森とコメンテーターの熊倉を交え、各団体がピアレビューの感想について報告しました。両団体ともピアレビューをするまではお互いの活動について知らなかったそうで、「顔合わせと活動紹介」、「相互の拠点訪問」というピアレビューのプロセスを踏みました。そこで、ピアレビューを企画した森から「お互いを見たときに、どういう点が強みに見えたか」という質問がありました。

一般社団法人藝との磯野さんは、らんたん亭が団体を立ち上げて間もないにも拘わらず、物理的な拠点や区内のネットワークを持っていることに驚いたと言います。同じく、藝との青木さんは、居場所に対する地域のニーズに沿ってプログラムが作られており、特に「飲食」に取り組んでいることが羨ましいとと率直に述べました。ファンファンは、活動がだんだん出来上がってから地域の声を取り入れるようになってきたという逆のプロセスだったため、らんたん亭が地域の声を起点にプログラムを作っている姿勢が参考になったと言います。

らんたん亭の中島さんは、今回初めて「ピアレビュー」という言葉を知り、「らんたん亭は立ち上がって間もない団体で、運営陣に専門家がいるわけでもないため、『評価』という言葉が怖かった」という率直な感想を述べました。ただ、ピアレビューの本を読み、相互に拠点訪問をするなどして実際にピアレビューに取り組んだ結果、自分たちの活動を俯瞰して省みることができ「やってよかった」とポジティブに捉え直しています。特に、足立区内のネットワークや課題にのみフォーカスを当てていたことに気づけたため、区外の団体との繋がりも可能性として考えていきたいと語りました。

(撮影:中川周)

持続的な運営のための試行錯誤

続いて、東京藝大の熊倉からは「実際に相手の拠点を訪れたときに、自身の活動と照らし合わせながら気になったことはあったか」という質問がありました。

磯野さんはらんたん亭を訪れたとき、多くの子どもたちが集まっていたことに驚いたと言います。ファンファンは2023年度から有料プログラムを開始したものの、その効果的な広報に悩んでいるそうです。それに対し中島さんは、公式WEBサイトを見て訪問する人は限りなく少ないとし、最もリーチできる方法は支援団体のネットワークでの日常的な情報共有だと答えました。

らんたん亭の拠点は平屋であるものの、ファンファンが「藝とスタジオ」の2階をシェアオフィスとして運用しているというアイデアに、安定した拠点運営のヒントを得たと中島さんは語ります。なお、「藝とスタジオ」は、青木さんが長年墨田区で活動する中で知り合った人の紹介で出会えた場所だそうです。それを聞いた中島さんは、ファンファンの運営スタッフが持つ地域に根差したネットワークが、拠点形成や新たな展開に繋がっていることも魅力的だと述べました。

最後に熊倉は、2つの団体の活動は東京の東側エリアが表現者にとって暮らしやすい地域であることをありありと示していると指摘します。そして、両者とも自律的なアートのための活動ではなく、個々人の創造力を頼りに文化的な活動と福祉分野を行き来していることが共通点であり、そのことが地域の拠点としての次なる可能性を切り拓いていくのではないかと総括しました。

(撮影:中川周)

「すみだ川アートラウンド・ハブ」開催概要
講座名:対話と支え合いの評価手法 ピアレビュー実践報告会 -「地域のマイクロアートスペース」をテーマに語り合う -
日時:2024年1月27日(土)15:00~17:00
場所:仲町の家(東京都足立区千住仲町29-1)、オンライン
登壇者:青木彬(一般社団法人藝と/インディペンデント・キュレーター)、磯野玲奈(一般社団法人藝と/アートマネージャー)、中島正行(らんたん亭代表)、森隆一郎(すみだ川アートラウンド・ハブ ディレクター/合同会社渚と 代表社員)、熊倉純子(東京藝術大学 教授)
講座運営:岡田千絵、吉田武司 ※敬称略