すみだ川アートラウンド・プラクティス
地域内のアートNPOのコレクティブ化計画[地域と子ども]

「ムジタンツクラブのアートなお祭り」

2023年9月18日(月・祝)

様々なアーティストがそれぞれの技を持ち寄って「アートな屋台」をひらく「お祭り」を開催しました。

2023年度の実践は、ワークショップや鑑賞ではなく「お祭り」

いつ参加してもよし!
どこに参加してもよし!

アーティストたちが生み出すワクワクするような屋台と、お祭りを楽しむ側でもあり、つくる側でもあった子どもたちの様子を、体験レポートとしてご紹介します。

実践の概要

日時:
2023年9月18日(月・祝)13:00~17:00(入場は16:30まで、出入り自由)

会場:足立区立保木間小学校

参加費:無料

参加アーティスト:
松岡大(舞踏家 / LAND FES・山海塾)
大西健太郎(ダンサー・パフォーマンスアーティスト / 谷中のおかって)
南條由起(ヴァイオリニスト・認定ワークショップデザイナー)

企画構成:ムジタンツ

参加者は3つの屋台ブースを自由に出入りすることができます。
それぞれのコーナーに参加し、スタンプを集めるとお菓子もゲット!
体育館には受付と「屋台をつくろう屋台村」「ダンサーのお祭り練り歩きツアー」、渡り廊下の先の教室には「なんゆきのヴァイオリン工房」とお菓子をゲットできる「茶屋」を設置しました。

実践体験レポート

本レポートでは、コーナー別に内容と参加した子どもたちの様子をご紹介したのちに、この「お祭り」全体が持つカオスな場のエネルギーを、ほんの少しだけ言語化することを試みます。

リポーター:篠原美奈(東京藝術大学大学院博士後期課程、アトリエ・ムジタンツメンバー)

屋台をつくろう屋台村(大西健太郎と子どもたち)

ここは子どもたちが屋台をつくる「屋台村」。アーティストのけんちゃんこと大西健太郎さんの説明によると、参加したい子どもたちは「自分の場所」をつくることができるそうです。そこではお店をひらいたり、展示をしたり、自分の売りたいモノ/コトを看板に書いて、屋台をつくることができます。体育館には、ダンボールやビニール紐、紙テープ、筒、竹の棒など、たくさんの素材が広がっています。

最初にけんちゃんがほんの少しだけお手本を見せてくれました。竹の棒を椅子にくくりつけて立たせ、その天辺から床に紙テープを貼りました。その隙間をくぐった先に「自分の場所」が誕生したようです。その説明を子どもたちは驚きのスピードで飲み込んでいきます。

各自作業に入ると、子どもたちはメキメキと「自分の場所」をつくっていきました。その様子を見て興味を持った子どもたちがちらほらと集まってくると、最初から説明を聞いていた子が「ここはお店を作るんだよ」と屋台の説明をしている様子を目撃しました。もうこの屋台村の「つくり手」はアーティストのけんちゃんだけではないようです。机や椅子をうまく使って場所をつくっている子もいれば、床に棒を立てて、ゼロから場所を生み出している屋台も出てきました。一人で黙々と作業を進める子もいますが、何人かで協力して作業を展開するチームもあるようです。

開始から1時間ほどの準備を経て、子どもたちがつくった屋台が徐々にオープンしてきました。子どもたちによる屋台はどれもユニークなものばかり!

例えば…

キャラクターの絵を売る「キャラクター屋さん」
お祭りの日にここで買ったものを身につけていると一目置かれました。

自作のアイロンビーズ作品の展示を行う「アイロンビーズ屋さん」
某アニメキャラクターをモデルとした洗練された仕上がりの作品展示。見るだけは無料、持ち上げて見るには「課ポルテ」制(後述)のやり手でした…

屋台繁盛のための呼びかけなど様々な手助けをしてくれる「お手伝い屋さん」
この屋台村全体を有機的に回していた一番の功労者といっても過言ではありません。

などなど、たくさんの屋台が見られます。展示用などの作品は予め子どもたちが準備したものですが、その場で生み出される品物もたくさんあります。

もう一つ、この屋台村には重要なシステムが存在します。それは独自のお金の単位である「ポルテ」です。ここでは、自分でスタンプをつくり、紙にスタンプを押して、さらにその紙を装飾をすることで「1ポルテ」という価値を持った紙幣を生み出すことができます。それぞれの屋台では、売りたいモノ/コトに対して「〇〇ポルテ」といった価値をつけ、紙幣と交換することで、この屋台村特有の「営み」が成立するのです。前述の「キャラクター屋さん」では1〜3ポルテでキャラクターの絵と交換してもらうことができました。「アイロンビーズ屋さん」では眺めるだけは「タダ」ですが、持ち上げてじっくり鑑賞するには1ポルテ、「お手伝い屋さん」は1案件につき1ポルテ、といった具合です。

屋台村の入り口には、このポルテを生み出すためのブースが設置され、途中から参加した子どもたちが最初に立ち寄る場所でもありました。スタンプは、発泡スチロールに爪楊枝で模様を掘ってつくります。凝り出すと意外と時間のかかる作業です。価値を生み出すためにはそれ相応のエネルギーが必要であるというメッセージを感じます…

1ポルテをつくるためのスタンプづくりを代行してくれる「スタンプ屋さん」
このコミュニティにおける需要を考慮した戦略的屋台も登場しました。案外自分の好きなモノ/コトを屋台にする、と言われるよりも、場のシステムや状況を見てその場に適した屋台を考える方が得意な子が多いのかなという印象です。しかしそんな子どもがいるからこそ、この屋台村がうまく循環していて、自然な形で子ども同士のコミュニケーションが発生しているように思いました。

アーティストによる「ルール」決め、それに軽やかに乗っかる子どもたち、そして大人も顔負けの状況判断で場を回し出す子どもたち、という様々な要素が混ざり合っていることが、この屋台村のキーポイントなのだと感じました。

ダンサーのお祭り練り歩きツアー(松岡大)

続いて、体育館のもう半分のスペースで実施されていた松岡大さんのコーナー。何やら文字が書いてある紙があちらこちらにぶら下がっているのが目に入ります。そして楽しげな音楽が流れる中、松岡さんがぶら下がっている紙の合間をぬって子どもたちの方へ近づいていきます。実はここがお祭り全体の受付と一番近く、まだ場に慣れていない子どもたちが初めて出会うアーティストが松岡さんであることが多かったように思います。

この祭りの中で最も流動的な動きを見せていたこのコーナーでは、集まった子どもによってアクティビティの内容も様々でした。もう遊びたくて仕方がない!という子どもたちとは、紙の合間を走り抜けながら追いかけっこ。側から見ていると、なんだかダンスのようにも見えてきます。

松岡さんは、子どもたちと打ち解けてくると、音楽のサビに合わせた振り付けを伝授しました。子ども一人とじっくり踊ることもあれば、大きな円をつくって一緒に踊る瞬間もあります。そして、耳を澄ませてよく聞くと、ぶら下がっている紙に書かれた言葉は音楽の歌詞から抜粋しているようです。断片的なワードだけ取り出すと、なんだか面白かったり、ハッとするような言葉も多いですね…言葉のリズムがこのコーナーのグルーブをつくっているような、そんな印象を受けました。

ある程度人数が集まると、お祭り練り歩きツアーが開催されます。松岡さんを先頭に、学生がスピーカーを担いで、音楽とともに練り歩いていきます。最初に訪れたのは屋台をつくろう屋台村。けんちゃんによる屋台村の簡単な紹介の後、一つひとつの屋台を見ながら進んでいきます。するとツアーに参加していた一人が屋台村にとても興味を持ち、ツアーから離脱する形でそのまま屋台村に参加しました。既に屋台村に参加した子はもちろん、まだ参加していない子もツアーに参加しているため、コーナー紹介やアテンドも兼ねているようです。

続いて、なんゆきのヴァイオリン工房(後述)に到着しました。ヴァイオリンの繊細な音色がドアから漏れ聞こえてきますがそのまま突入!部屋にはヴァイオリン以外にも様々な打楽器が置いてあり、なんゆきこと南條由起さんのヴァイオリンと子どもたちによる打楽器、そして松岡さんと子どもたちによるダンスのセッションが突如始まりました。このタイミングでは、南條さんが奏でるメロディーに、子どもたちがエッグシェイカー(卵型のマラカス)やトーンチャイム(ハンドベル)で音を重ね、松岡さんと子どもたちもワルツのような踊りを踊っていました。セッションを終えると、ツアーの参加者はヴァイオリン工房を後にし、体育館へと戻ってきました。ツアーはこれで終わりですが、子どもたちは練り歩く中で興味を持ったコーナーに吸い寄せられて行きました。

なんゆきのヴァイオリン工房(南條由起)

ここはヴァイオリニストの南條由起さんによる、なんゆきのヴァイオリン工房です。このコーナーではヴァイオリンを解体して、色々なパーツを紹介しながら組み立てる解体ショーを定期的に開催しています。ヴァイオリンを目の前で観察できるだけでなく、バラバラに解体された状態を見ることができるので、音楽に興味がある子はもちろん、工作などモノづくりに興味のある子も興味津々なようです!

解体に先立ち、南條さんが少しだけ実際に演奏してくれました。小さなことではありますが、最初に音色が聴けるというのは、子どもたちの興味を引いたり、集中してお話を聞いてもらうための準備として、とても大事なことだと改めて感じます。参加した年齢は幅広く、楽器を間近に体感するというライトな楽しみ方をした子どももいれば、じっくり聞いたり、見たりして、「探求」の面白みをしっかり味わっていそうな子どももちらほらと見受けられます。

例えば、楽器の中(表板と裏板の間)にある「こんちゅう」というパーツ、漢字は「魂柱」と書きます。楽器全体に音を響き渡らせるには不可欠なこのパーツは、まさに「ヴァイオリンには魂が宿っている」と言われる所以であるそうです。実際に楽器を解体して、思わず「図工とは全然違う…」と呟く子どもを目撃しました。

楽器の組み立てが終わると、子どもたち一人ひとりがヴァイオリンの演奏を体験する時間になりました。順番を決める必要があったので、一人の女の子の提案で、年齢の小さい子から順番に体験することになりました。ヴァイオリンの演奏というと、なかなか初心者では綺麗な音色が出せないような難しさを想像しますが、そんなことにビクビクするのはどうやら大人だけのようです。南條さんから構え方を教わった子どもたちは、臆することなく弓も動かしてみます。最初は南條さんも一緒に弓を持っていて、慣れてくると一人で演奏してみます。一人につき5分ほどの体験時間ではあるので、もちろん「お試し」には過ぎませんが、この5分でヴァイオリンという楽器が急に身近に感じた子も多いのではないでしょうか。特にそれを見守っていたご家族の方も心の中で「うちの子がヴァイオリンを弾いている…!!」という驚きを感じていたように見えました。

なんゆきのヴァイオリン工房では、コンサートのように演奏する側と聴く側がはっきりしている一方向的なコミュニケーションではなく、小さな机を囲っての解体ショーを中心に、たくさんの会話が生まれる空間となっていたことが印象的でした。先述のように楽器を弾いたり歌を歌ったりすることに苦手意識がある子どもは少なくありません。モノづくりや実験工房のような雰囲気のある空間が、他の2つのコーナーとは異なる緩やかな音楽との出会いと探究心が膨らむ場を生み出していたと言えるかもしれません。

茶屋

最後にスタンプを集めた子どもたちが行き着く「茶屋」の様子を少しご紹介します。ここでは、子どもたちがスタンプを集めたカードを見せると、「茶屋」を見守る大山さんからお菓子をもらうことができます。

この「お祭り」では、積極的に色々なコーナーに参加してどんどんお菓子をもらっている子がいる一方で、どうやって遊びに参加したらよいのか戸惑っている子もいました。そんな子どもたちがひとまず「茶屋」に訪れて大山さんにお菓子をもらいつつ、「ここに行ってみたら」といった提案をもらったりする様子が見受けられました。

中には、スタンプ関係なく、じゃんけんをしてお菓子をもらった子もいたようです。最初に「茶屋」に立ち寄った子はまだスタンプを集められていないので、こういった柔軟な対応があったことで、初めて遊びに参加できた子も多かったかもしれません。

袋いっぱいに詰まったお菓子を嬉しそうに持って帰る様子は、地域のお祭りや子ども会のイベントを連想させます。お菓子をもらった「ついでに」屋台づくりやダンス、ヴァイオリンを楽しんでくれたようで何よりです!

お祭りの「余白」と遊びの発明家

「次どこ行く?」
「もういっかいあっち行ってこようかな」
「あっち行ってみたいから店番してて」
「スタンプカードなくしたけどまた押して回るからいいや」

子どもたちは4つのコーナーをぐるぐる行き来します。屋台をつくろう屋台村とダンサーのお祭り練り歩きツアー、なんゆきのヴァイオリン工房、そして「茶屋」。それぞれ全く雰囲気の違うコーナーを子どもたちが繋ぎ、一つの「お祭り」として空間が渦巻いています。

今回のお祭りの核は「自分の場所」をつくる屋台村。子どもたちが作り手となることが必要不可欠なこの仕組みが、お祭りを「用意する人」と「楽しむ人」ではなく、「みんなでつくって楽しむもの」へと変えていきます。そして、お祭り練り歩きツアーはコーナーごとの垣根を破り、お祭り全体をかき混ぜる役割を担っていると言えるのではないでしょうか。なんゆきのヴァイオリン工房は他の2つのコーナーに比べ、ゆったりとした時間が流れていました。こちらの雰囲気の方が落ち着いて楽しむことができる子どももいるように思います。

このように、お祭り全体としては不思議なバランスが取れているようにも感じます。とはいえ、かなりごちゃ混ぜの状態であることも確かで、現場は常にカオスな様子。子どもたちは常に入れ替わり、ずっと遊んでいる子もいれば、すぐに別のコーナーへ行ったり、途中から参加して途中で帰る子もいます。ここが一般的な参加型のワークショップや鑑賞型のアウトリーチコンサートなどとは大きく異なるポイントでもありました。モノづくり系のアートワークショップでは、常設的にコーナーを設置し、子どもたちが訪れたタイミングで参加できるものも多く見られます。しかし「いつでも」参加できるものの多くは、子どもが一人で作業することがメインのアクティビティであったり、キットが用意されているなど大人からのサポートが手厚い傾向にあるのではないでしょうか。今回もスタッフの見守りが常になされている中ではありましたが、子どもたち自身がお祭りの遊び方を決めていく「余白」の部分がかなり多かったように思います。

子どもたちは場所と時間、素材があれば必ず大人が想像もしなかったような発想で、遊びを生み出していきます。「茶屋」でも、スタンプカードを何枚ももらって何周もお祭りを周る男の子が現れ、他の子たちも彼の真似をして何回もスタンプカードを埋めて「茶屋」を訪れます。これも一種の遊びですね。

子ども同士で「遊ぶ」ことは、当たり前のように見えますが、なかなか遊びの方法やきっかけを見つけられない子どももいます。アーティストや「遊ぶ」ことが得意な子どもたちが、周りの子どもたちを誘発する様子、そんな見えないエネルギーの伝播が「アートなお祭り」には存在したのかもしれません。

アートマネジメント人材育成事業について

今回のプログラムは、文化庁 大学における文化芸術推進事業(アートマネジメント人材育成事業)の一環として、アートを専門とするファシリテーターの育成にも取り組みました。アートマネージャーや演奏家、音大生、ワークショップやプログラムコーディネートに関心のある方、足立区でこども支援を担う施設職員や一般社団法人の方々を対象に、当日はアシスタント・ファシリテーターとして実践を経験していただきました。

受付などの運営面だけでなく、演奏や進行の補助、子どもたちとコミュニケーションを行うなど、多様な関わりしろをつくることで、それぞれの経験したいこと、学びたいことを吸収してもらえるような場となることを目指し、プログラム設計を行いました。

ムジタンツとは

音楽(Musik)とダンス(Tanz)を組み合わせた造語です。
音楽を専門にする酒井雅代と、身体表現を専門にする山崎朋がお互いの専門性を持ち寄り、音楽とダンスを融合させた新しい形のワークショップを開発。クラシック音楽の作品を、聴いて、遊んで、楽しみ、探求する講座として、2018年に東京藝術大学一般公開講座「藝大ムジタンツクラブ」としてスタートしました。身体を動かし、音楽を体感しながら、作品との「対話」を目指すとともに、音楽活動を通して、価値観や創造力を広げられるようアプローチしています。

企画・構成:ムジタンツ
主催:東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科
共催:東京藝術大学キュレーション教育研究センター「東京藝大×みずほFG『アートとジェンダー』共同研究プロジェクト」
後援:足立区
協力:足立区立保木間小学校、あだち子ども支援ネット、ポルテホール連絡協議会

この事業は「令和5年度 文化庁 大学における文化芸術推進事業「すみだ川アートラウンド」〜ARTs×SDGsでつながる隅田川流域の民間組織コレクティブ化構想」の一環として開催します。
本イベントは、JST 共創の場形成支援プログラム「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」(JPMJPF2105)、東京藝術大学 I LOVE YOUプロジェクトの支援を受けたものです。