「地域のマイクロアートスペース」をピアレビューする
2024年1月実施:すみだ川アートラウンド・ハブ開催レポート
すみだ川アートラウンド・ハブとは
「すみだ川アートラウンド」とは、隅田川流域(北区・足立区・墨田区・台東区・荒川区・江東区・中央区)で活動するアーティストやアートNPO、民間団体が中核となって、これまでにない有機的な活動体(コレクティブ)のあり方を調査・実践するプロジェクトです。
「すみだ川アーツラウンド・ハブ(以下、『ハブ』)」はその一プログラムとして、活動のピアレビュー(同業者による相互評価)を足掛かりに、隅田川流域の活動団体のネットワーキングに取り組んでいます。活動2年目を迎える2023年度は、「地域のマイクロアートスペース」をテーマに、「一般社団法人藝と」(墨田区)と「らんたん亭」(足立区)のピアレビューを実施しました。
お互いを映し鏡のようにして行うピアレビューを経て、それぞれどのような気づきがあったのでしょうか。本イベントでは、2団体が複数回にわたって実施したピアレビューの成果を報告しました。
登壇者:青木彬(一般社団法人藝と/インディペンデント・キュレーター)、磯野玲奈(一般社団法人藝と/アートマネージャー)、中島正行(らんたん亭代表)、森隆一郎(すみだ川アートラウンド・ハブ ディレクター/合同会社渚と 代表社員)、熊倉純子(東京藝術大学 教授)
団体紹介1:一般社団法人藝と
アートプロジェクト「ファンタジア!ファンタジア!」
団体紹介1:一般社団法人藝と
アートプロジェクト「ファンタジア!ファンタジア!」
「一般社団法人藝と」は、「ファンタジア!ファンタジア!-生き方がかたちになったまち-(以下、『ファンファン』)」というアートプロジェクトを運営している団体です。ファンファンは、「『アート』や『アートと呼ばれていない創造力』を手掛かりに、自分たちの当たり前を疑い、より良く生きる小さな工夫を発見・共有することで、まちを学びの場に見立て」るプロジェクトです。2018年度から、アーツカウンシル東京による「アートポイント計画」の共催事業として活動を続けています。
ファンファンの活動地である墨田区墨東エリアは、古くから木造住宅や町工場がひしめき、近年ではそれらを活用したアートスペースが増えてきています。ファンファンも2階建ての町工場をDIYし、2021年から「藝とスタジオ」という拠点を開いています。1階はスタジオ、2階はシェアオフィスとして活用しており、ご近所さんやアーティスト、福祉に携わる人などさまざまな人たちが拠点を訪れているそうです。
墨田区とスタジオを基盤にした多彩なプログラム
ファンファンは事務局4名、インターン6名で運営されています。そして、これまでに6つのプログラムを実施してきました。どのプログラムも、地域の資源や参加者の内なる好奇心に寄り添ったものであることが特徴です。
直近の「プラクティス」の企画では、2022年11月に社会福祉法人「興望館」にてアーティストの碓井ゆいさんの展覧会「共に在るところから/With People, Not For People」を開催。約100年にわたりセツルメント運動を行ってきた興望館の資料を調査し、刺繍作品や日誌を題材にした作品を制作しました。
現在は、社会福祉やオープンスタジオのあり方に関心を寄せた活動に注力しています。例えば、「藝とスタジオ」を開くにあたり、事務局メンバーは「そもそも自分が思っているオープンは本当にオープンなのか」という疑問を抱いたそうです。そこで、スタジオへのアクセシビリティを考えるゲストレクチャーを開催したほか、言語を超えた他者と出会うことを目的に、視覚言語を使ったコミュニケーションを体験するワークショップを実施しました。
ファンファンの強みとこれからの課題
それぞれのプログラムは、ファンファン(=アートと呼ばれていない創造力を求める原動力)を参加者と事務局が相互に提供し学び合いたいという動機が起点になっています。したがって、事務局メンバーの関心の高さや、個人的なネットワークが特色あるプログラム開発へと繋がっています。また、活動拠点の「藝とスタジオ」はシェアオフィスとしても運用しているため、建物の維持費を比較的安く抑えることができているそうです。その結果、事業計画の見通しを立てることが可能になっています。
今後は福祉分野との協働を推進するために、行政や地域の福祉施設、福祉の関連人材との繋がりを模索していきたいという展望が語られました。さらに、「藝とスタジオ」の収益性を高め、自主事業など積極的な法人運営をしていきたいという意気込みも明かされました。