さまざまな評価手法を組み合わせる
アートプロジェクトの評価にあたっては、さまざまな評価方法を活用することができます。ただし、定量評価と定性評価のどちらも重要であり、複数の手法を組み合わせることで事業価値を複眼的に捉えることができます。若林さんによると、定性評価については表1にあるような方法が参考になるそうです。
表1に見られる評価手法は、アートプロジェクトの現場ですでに活用されているものです。ただし、現場の当事者にとって一番知りたい結果が得られる評価は「ピアレビュー」ではないかと若林さんは言います。
現場をエンパワメントするピアレビュー
ピアレビューの「ピア」とは、仲間や同僚といった同等の立場の人のことを指します。ピアレビューは、「共通の専門性、知識、技術、経験を持った、類似の他者がパフォーマンスの状況を調べて課題を見つけ、現場の担当者がよりよい成果を生み出せるように改善と質向上の機会を提供すること」です。
ピアレビューが一番普及しているのは学術・科学技術・医療の分野ですが、私たちの日常生活の中でも肩越しに行われています。たとえば、仕事をしているときに「この企画の内容、どう思う?」と同僚に意見を仰ぐことがあるかと思います。これもまたピアレビューです。つまり、プロジェクトがさらによくなるように仲間にアドバイスを仰ぐような評価だとイメージすると理解しやすいかもしれません。
ピアレビューは、類似のピア団体を見つける難しさはありますが、3つの大きなメリットがあります。ピアレビューは、(1)類似の他者の的確な指摘によってプロジェクトを改善することができ、(2)プロジェクトを語る新たな語彙や気づかなかった価値を認識することができ、(3)そのような気づきを共有することでアート業界全体の底上げにもつながるという効果が期待できます。
ピアレビューの進め方は決まっている型があるわけではありません。ピアレビューの本では、ピアレビューの具体的な工程が11段階に分けて紹介されていますが、その工程を柔軟に変えていくことを若林さんは推奨しています。現場にいる自分たちが何を知りたいのか、何に行き詰まっているのかという実際的な問いを軸に考えることがピアレビューでは大切です。