令和5年度 文化庁 大学における文化芸術推進事業
「すみだ川アートラウンド」〜ARTs×SDGsでつながる隅田川流域の民間組織コレクティブ化構想
「すみだ川アートラウンド・キックオフミーティング2023」
2023年6月25日(日)
part2
登壇者:
熊倉純子(東京藝術大学 教授)
清宮陵一(NPO法人トッピングイースト 理事長)
森隆一郎(合同会社渚と 代表社員 / アーツカウンシルさいたま プログラムディレクター)
芦部玲奈(NPO法人トッピングイースト)
吉田武司(NPO法人音まち計画)
酒井雅代(ムジタンツ)
渡邉梨恵子(一般社団法人谷中のおかって)
ARTs×SDGsからいかにシナジー効果を生み出すか
「すみだ川アートラウンド」は、ARTs×SDGsの可能性に着目し、隅田川流域の7区(北区・足立区・荒川区・墨田区・台東区・江東区・中央区)を活動領域とするアートNPO・団体が中核となり、他分野の民間事業者・行政関係者と対話を重ねることでアートの特性を活かした社会課題の解決を昨年度より模索している。
活動2年目となる2023年度は、キックオフミーティングの場にすみだ川アートラウンドを構成する3つのプロジェクト(ラウンドテーブル・ハブ・プラクティス)の関係者が一堂に集い、昨年度の振り返りと今年度の展望を述べていくことから始まった。
熊倉教授は、全体の概要説明において、昨年度それぞれ走り出した3つのプロジェクトが徐々に連動し、シナジー効果を生み出すことによってアート分野以外の民間事業者・行政関係者ともゆるやかにつながり、コレクティブ化構想をさらに進めていくことが今年度の課題であると述べた。
「サーキュラー・ダイアローグ(循環する対話)」の先に
ラウンドテーブルは、再生可能エネルギー・食・モビリティの3つのテーマを取り上げ、「第1章 サーキュラー・ダイアローグ(循環する対話)」の名の通り、まず各テーマの関係者が「対話」をすることから始まった。対話からテーマごとのワーキンググループが生まれ、各グループごとにゲストの方が営む再生可能エネルギー利用の銭湯で今後の構想を話しあったり、対話内で話題にあがった雨水ハイボールを実際に飲みに行ったりなど、対話から構想に向けた活動を徐々に行いだしている。
今年度はまずアートとしても楽しめる太陽光パネルを制作し、(公財)東京都公園協会が隅田川テラスで今秋実施するイベントで使用予定である。これは昨年度の参加者の発言がきっかけとなり、実装されることになった。ラウンドテーブルでは、太陽光パネル以外にも実装に向けて動きだしている構想のタネが複数ある。今年度もまた対話から構想、そして実装へ、循環する対話の先を展開していく。
「Meeting アラスミ!」から「すみだ川アートラウンド」へ
ハブは、民間事業者やNPO、文化・芸術団体/7区役所を中心とする行政組織、対象ごとにセクションを分けて活動している。民間事業者等を担当するセクションからは森モデレーターが、行政組織を担当するセクションからは芦部コーディネーターがそれぞれ登壇した。
森モデレーターは、すみだ川アートラウンド活動前史にあたる2019年から3年間活動を行ったプロジェクト「Meeting アラスミ!」の振り返りをまず行った。Meeting アラスミ!は当初、自治体を越えた「すみだ川文化圏」の存在を意識し、足立・墨田・台東の3区の文化政策を連動させ、さらに東京藝術大学を中心に、3区内の文化のハブとなる拠点同士のつながりを強化させることから共創型プラットフォームを構築できないかと模索していた。3年の活動を通してMeeting アラスミ!が構想した広域連携型アーツカウンシル「アラスミ・アーツカウンシル」を背景に、「すみだ川アートラウンド」は活動領域を隅田川流域の3区から7区に拡大し、さらなる活動を展開しだした。
ピア・レビューから何が生まれ、はじまるか
創造的人材の集積を担う民間事業者等を担当するセクションでは、昨年度「アウトリーチ」をテーマにトリトン・アーツ・ネットワーク×ムジタンツ、LAND FES×谷中のおかってという2団体ごとのピア・レビュー(同業者による相互評価)を行った。今年度はプロジェクト・コーディネーターの若林朋子さんを講師に招き、ピア・レビューの入門編講座を実施したうえで、隅田川流域で文化拠点を運営する団体同士がピア・レビューを行う。
隅田川流域に関わる10の行政組織の連携を通して
隅田川流域には7つの行政区以外に国土交通省 関東地方整備局 荒川下流河川事務所、東京都建設局河川部、(公財)東京都公園協会という合計10の行政組織が関わっている。「隅田川怒涛」・「隅田川道中」という流域全体を舞台とする文化事業の企画運営を行ってきたトッピングイーストは、2019年度より事業実施に向けた協議・検討の場として、この10組織を集めた連絡会を実施することで、事業実施時の手続の煩雑さや合意形成への高いハードルを軽減してきた。そのノウハウを生かし、行政組織を担当するセクションは、10組織のうち8組織が参加したピアレビューを非公開で実施した。
昨年度は文化事業に関わる行政担当者が主に参加したが、足立区からは複数の部署をつなぐ役目を担うシティプロモーション課が参加した。足立区の話を通して、他の参加者から文化以外の担当部署との連携の重要性を指摘する声が多くあがった。この気づきを活かし、今年度は文化セクション×文化以外のセクションの行政担当者が、文化を中心軸に置きつつも他分野(環境、産業振興、福祉、都市整備、防災・治水)との領域横断により、地域課題解決の糸口を探る場を設ける。
社会課題に対してアートの特性を活かした解決策を
プラクティスは、昨年度、多文化社会の実現・高齢化社会・地域の子どもという3つの社会課題に対して、トッピングイースト・音まち計画・谷中のおかって・ムジタンツの4団体がアートの特性を活かした体験の場を構築することから解決策を模索した。
隅田川流域の7区の外国人居住率は都内平均よりも高いが、彼らとの交流が盛んとはいえない現状がある。トッピングイーストは、アーティストのコムアイさんとともに、流域に在住している外国人の方と「食」を通したつながりを改めて構築しようとしている。コムアイさんが、流域内にある外国人の方経営の飲食店で料理を教わりながら、普段どのような暮らしをしているのかなど話を聞くことから交流の第一歩を進めている。
音まち計画は、東京藝術大学・足立区と連携したアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」の一環として、海外にルーツを持つ人々の日本での日常生活に焦点をあてた「イミグレーション・ミュージアム・東京」を2013年から実施している。この経験を活かし、足立区内の小学校4校でアート・エデュケーションプログラムを実施し、アートを介して内なる国際化を身近な出来事として考えるきっかけづくりを行った。
音まち計画は、谷中のおかってとともに高齢化社会に関する課題にも取り組み、地域包括支援センター関原(足立区)・劇団うめはる・梅田クラブと連携し、音楽を取り入れた介護予防プログラムを実施した。今年度は「パークでアートレ」と題し、アートを通じた介護予防活動をさらに活発化させ、音楽・歌・踊りをメインに高齢者と子どもが共存できるプログラムを実施する予定である。
ムジタンツは「Meeting アラスミ!」に関わったことによって、子どもの貧困に対し「施設に入居している子どもに向けたインケアに終始してはいけない」・「子どもと地域をつなぐ必要がある」という課題を見つけたという。昨年度はこの課題意識を持って、ポルテホール連絡協議会・一般社団法人あだち子ども支援ネットと連携し、子どものアートに関する体験活動を行った。今年度はさらに谷中のおかって・LAND FESの2団体とも連携し、プログラムの充実化を図る。
子どもから高齢者まで、あらゆる人がアートプロジェクトに親しむ社会に
熊倉教授は、現在の社会は「アート」というと「音楽や絵を描くこと」を思い浮かべ、それ以外を知らない、アートの他の可能性を全く知らないと指摘し、すみだ川アートラウンドのようにアートの技術を因数分解した取り組みを実践することで、子どもから高齢者の方がアートプロジェクトに親しむ社会が訪れることができればと今後の展開に対する抱負を述べ、キックオフミーティングは閉幕した。
レポーター:松本知珠
写真:中川周