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アートプロジェクトの現場で活きる評価「ピアレビュー」

2023年7月実施:すみだ川アートラウンド・ハブ開催レポート

すみだ川アートラウンド・ハブとは

「すみだ川アートラウンド」とは、隅田川流域(北区・足立区・墨田区・台東区・荒川区・江東区・中央区)で活動するアーティストやアートNPO、民間団体が中核となって、これまでにない有機的な活動体(コレクティブ)のあり方を調査・実践するプロジェクトです。

「すみだ川アーツラウンド・ハブ(以下、『ハブ』)」はその一プログラムとして、活動のピアレビュー(同業者による相互評価)を足掛かりに、隅田川流域の活動団体のネットワーキングに取り組んでいます。2022年度は、アウトリーチをテーマに、隅田川流域で活動する4団体を招き、2団体ごとにお互いの事業内容についてピアレビューを行いました。2023年度は、地域の文化拠点をテーマに、「一般社団法人藝と」(墨田区)と「らんたん亭」(足立区)のピアレビューを実施し、その成果報告会を予定しています。

そこで、ピアレビューの実施に先立ち、アートプロジェクトの評価に携わってきた若林朋子さんの講義を中心に、東京藝術大学教授の熊倉純子さんと、ハブの企画統括である森隆一郎さんを交えて、ピアレビューの基礎知識や実践方法などについて学びました。

 


「評価」=価値を見つけるということ

評価と聞くと、「点数をつける」「粗を探す」というネガティブな印象が強いかもしれません。しかし、「ピアレビューは前向きな評価」であると若林さんは言います。

若林さんがピアレビューに関心を持ったきっかけは、公益社団法人企業メセナ協議会に勤めていたころにありました。企業の文化活動を支援する中で、企業のメセナ(文化活動)担当者が他社の活動を楽しそうにベンチマーキングしにいく姿を目の当たりにしたそうです。ライバル企業の社員同士が、文化活動のことになると同じ悩みを共有し、助け合い、PRし合う互助的な関係を培っている様子にヒントを得て、アートの現場に有効な評価としてピアレビューに関心を寄せて研究を続けていらっしゃいます。

「評価」という言葉の語源は、フランス語の「évaluer=価値を見つける」にあります。アートプロジェクトにおける評価とは「プロジェクトがどのように機能したか、関係者や該当分野がどのように変化したかについての検証」を意味します。アートプロジェクトは、「プロジェクト」である以上、明確な目的や達成目標を定めて系統立てて実施されるものです。したがって、個人的な主観に依拠する作品評価とは違い、そのプロセスに対応した系統立てた客観的な評価が可能です。

アートプロジェクトを評価する意味

そもそも、なぜアートプロジェクトを評価する必要があるのでしょうか。その理由は大きく3つあります。(1)プロジェクトを進化・深化させるため、(2)ステークホルダーに結果や成果を報告するため、(3)プロジェクトに対する共感の輪を広げ、理解者・支援者を得るためです。ただし、若林さんは「これらはあくまで“教科書的”な理由」とし、評価という行為が特に意味を持つのは、プロジェクトの実施主体が「評価に対する切実な動機や目的を自由に深く考えて、自分たちの言葉で表現する」部分にあると強調します。

たとえば、自分たちはなぜ評価をしたいのかという根本を考えるワークショップを行うことで、アートプロジェクトを実施する本来の目的や目標が明確になります。事業の青写真がわかれば、それに見合った評価の手法を適切に組み合わせることができます。アートプロジェクトがもたらす価値である「当初想定していなかった成果」を認識するためにも、プロジェクト開始当初の目的や目標の確認は欠かせません。評価は、アートプロジェクトのミッションに立ち返り、それを達成するための補助線のような機能を果たすものでもあります。

若林朋子さん